研究内容

"永遠の化学物質"PFASの毒性影響の解明

皆さんはPFAS(パー/ポリフルオロアルキル化合物)という化学物質をご存知でしょうか。


PFAS類は撥水/油性、耐熱/薬品、遮光性などの特性を持つ事から、撥水剤・表面処理剤・乳化剤・消火剤・コーティング剤と我々の身の回りの非常に幅広い製品に用いられています。これらは非常に分解されにくいため、永遠に消えない化学物質 "Forever chemicals"とも呼ばれ、その健康影響が懸念されています(※実際には永久に消滅しないわけではなく、高残留性だが徐々に分解される)


PFASの曝露は発癌リスクや高コレステロール値のリスク要因となると考えられていますが、これらの正確な毒性影響の全貌は未だ解明されていません。我々人類は水や埃、食品などに含まれる低濃度のPFAS類に慢性的に曝露されていると考えられますが、そのような低濃度・慢性曝露が与える毒性影響に関する知見は十分ではありません。


そこで当研究室ではマウスに対し人間が摂取し得るPFAS濃度・組成(直鎖PFAS9種合計1 µg/L)での飲水曝露を実施しました。

病理組織学的検索・次世代シークエンス解析・メタボローム解析を通し上記の人間が摂取し得る濃度域での混合曝露がマウス肝臓に対し顕著な組織学的変化及び発癌指向性の遺伝子発現プロファイル変化を引き起こす事を明らかにしました


本研究成果はToxic誌の特集号PFAS Toxicology and Metabolism)に掲載され、Editor’s Choiceに選定されるなど高い注目を集めています。


画像出典:
Takeda, K. et al., Toxicity Assessment of Mixed Exposure of Nine Perfluoroalkyl Substances at Concentrations Relevant to Daily Intake
Toxics 2024, 12(1), 52. DOI: 10.3390/toxics12010052

本文・グラフィカルアブストラクトともにオープンアクセス(CC BYライセンス)のもとで公開されています。

© 2024 by the authors. Licensee MDPI, Basel, Switzerland.



Breaking News!

本曝露試験がマウスの精巣に対し造精機能を低下させる事を示唆する事を第167回日本獣医学会学術集会(2024年9月帯広畜産大学)で発表した学部5年生(2024年当時)の吉村和加菜さんが日本獣医薬理学・毒性学会 優秀発表賞を受賞しました!


実はヒトの精子はこの半世紀で急激に減少しており、精子の総数は70年代に比べて62%減少し1年ごとの減少率は2000年以降2倍になっていたと報告されています。

当研究室ではPFASの慢性曝露がこの一因ではないかと考え、PFASの男性生殖器への影響の評価も実施しています。


※Pérez F. et al., Assessment of Perfluoroalkyl Substances in Food Items at Global Scale. Environ. Res. 2014, 135, 181–189を参照