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北海道大学大学院で計算毒性学の講義を行いました
2021年7月28日 - 29日の2日間、武田助教が北海道大学大学院獣医学研究院のケミカルハザードコントロール専門家特論にてComputational Toxicologyの実習を客員教員として実施しました。
化学物質による環境汚染・野生動物の中毒【ケミカルハザード】は2021年現在も国際的な課題です。この対策には化学物質が生態系に与える影響を適切に評価する事が不可欠であり、幅広い動物種に対する見識を有する獣医学部分野の研究者の貢献が望まれています。これに対し、本コースではケミカルハザード対策に必要な幅広い分野の専門知識を養うために野生動物学・疫学・分子生物学・計算化学といった学際的な教員による集中講義を行い、産官学に通用するケミカルハザードコントロール専門家の養成を行っています。
本コースの修了生でもある武田助教はこの集中講義の中でComputational Toxicologyを担当し、オンラインのデータベースやコンピューターシミュレーションを用いた"in silico"の実験手法で化学物質が生物に与える影響の評価を行いました。
化学物質とタンパク質など生体内の標的分子との結合はその薬効・毒性の発現に直接的に関与する重要な要素です。一方、これらの結合能を実験的に取得するのは多大な費用・時間を要します。例えば創薬分野では数百万の創薬候補物質を全て実験して評価するのは事実上不可能ですし、環境毒性学分野でも野生動物の生体サンプルを入手する事は困難です。これに対し、化学物質とタンパク質それぞれの立体構造を用いた分子ドッキング(Molecular docking)や分子動力学(Molecular dynamics)シミュレーションといった計算手法によりコンピューターシミュレーションで化学物質とタンパク質の結合能(≒毒性影響)を予測する事が可能になりつつあります。
化学物質の毒性試験には現状動物実験が不可欠ですが、これらのシミュレーション手法は動物を傷つけない”非侵襲的”な毒性試験法としても着目されており、いわゆる"3Rs"の理念に則った動物実験の削減に際して獣医学教育でも今後積極的に取り入れられていくべきだと思います。
今回の実習ではこれらの手法による低分子ドッキングや、野生動物のDNA情報からタンパク質立体構造を予測するホモロジーモデリングといった手法を実際に受講生自身のコンピューターで実践しながら習得しました。2021年7月に公開されたばかりの、Googleグループ企業が作成したディープラーニング手法による高精度タンパク質立体構造予測ツール"AlphaFold 2"を用いた野生動物のタンパク質構造作成も行い、受講生から好評を博しました。
本コースは国際的な評価も高く、例年はこの講義を受講するためにアジア・アフリカ各国から多数の短期留学生が来ていましたが今年度はコロナ禍のため北大の博士後期課程の学生との対面講義と、オンラインでのハイブリッド方式となりました。また、このため本講義内容については海外からの受講者向けにオンデマンド配信も予定されています。