研究業績
The Journal of Toxicological Sciences 50, 7, 309-324 (2025)
Comprehensive molecular docking on the AlphaFold-predicted protein structure proteome: identifying target protein candidates for puberulic acid
著者
Teppei Hayama, Rin Sugawara, Ryo Kamata, Masakazu Sekijima, Kazuki Takeda*
カテゴリ
学術論文
Abstract
【ヒト全タンパク質20000種の構造プロテオームへの網羅的分子ドッキングによる毒性標的予測法Binding Proteomicsの構築】
毒性化合物の分子標的の同定は、毒性学における依然として大きな課題であり、とくに標的外臓器に有害影響が生じ、その作用機序が不明である場合には困難を伴う。この課題に対応するため、本研究では、ヒトやマウスなどの代表的生物種におけるAlphaFold2予測構造プロテオーム全体を対象として、高スループット分子ドッキングを実施し、続いてエンリッチメント解析を行うことにより、リガンド結合によって影響を受け得る生物学的過程を推定する包括的計算パイプライン「Binding Proteomics解析」を構築した。
まず、本パイプラインを、既知の薬物–標的分子ペア6組を用いて評価した。その結果、複数の組み合わせにおいて、既知の標的分子は21,000種類を超えるタンパク質のうち上位2~250位(上位0.009~1.15%)にランクされ、実験的に観察された結合様式と整合するドッキングポーズを示した。一方、アセタゾラミドに対する炭酸脱水酵素IIのように、結合ポケットが広い標的ではドッキング結果が不正確となり、性能に限界が認められた。
次に、本パイプラインを、重篤な腎毒性の原因物質として疑われているプベルル酸に適用した。スクリーニングの結果、ナトリウム/ミオイノシトール共輸送体2(SLC5A11)が、ヒトおよびマウスの双方において高親和性標的候補として同定され、腎臓における浸透圧調節の破綻を介した毒性機序の可能性が示唆された。ドッキングスコアは理論的な結合推定値にすぎず、生理学的影響を直接的に意味するものではないが、その分布はタンパク質長およびAlphaFold2の信頼度スコア(pLDDT)に依存しておらず、本手法の頑健性を支持する結果であった。
本in silico解析基盤は、毒性物質または治療薬候補の潜在的標的タンパク質を仮説駆動的に同定することを可能にし、とくに実験データが限られている状況における予測毒性学の有用なツールとなる。本Binding Proteomics解析の全パイプラインは以下で公開されている。
https://github.com/toxtoxcat/reAlldock