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英語論文ゼミ2022.04.08

英語論文ゼミ① 抗ガン作用を持つハーブの作用機序・副作用

今回は2022年度初めての毒性学研究室英語論文ゼミでした。

当研究室(というよりほぼ全ての理系のラボ)では学生が持ち回りで英語学術論文を読解し、内容を研究室メンバーの前でプレゼンするゼミ/セミナーが行われています(余談ですけどゼミとかセミナーとか輪講とか色々言い方ありますよね)


なぜどこの研究室でもこのような英語論文ゼミを行っているかというと、理系の学生として必須の能力である英語論文の読解力を養成し、専門分野に関する世界最先端の知識を得る事が目的(研究室によっては発表後半年以内の論文限定などとしているらしい)です。また、プレゼンテーション形式で発表する事でプレゼン力も身につきます!

当研究室では毎週金曜日の午前9時から約1時間、全員参加の英語論文ゼミを行っています。

 

今回は2021年5月にToxicology and Applied Pharmacology誌へ掲載された”Dibenzyl trisulfide binds to and competitively inhibits the cytochrome P450 1A1 active site without impacting the expression of the aryl hydrocarbon receptor”を6年生が発表してくれました。


Toxicology and Applied Pharmacology誌は、化学物質、薬物、または化学的に同定された天然物の作用に関連する動物・人間を対象とする科学的研究論文を掲載している雑誌です。インパクトファクター(科学雑誌の戦闘力みたいなもの)は4.219で、毒性学分野での有名誌の一つです。

今回の紹介した論文は↓です。

 

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自動的に生成された説明

引用元:https://doi.org/10.1016/j.taap.2021.115502

 

この論文はジャマイカのウェストインディーズ大学の研究グループによって書かれており、ジャマイカで抗がん治療に用いられているハーブの有効成分であるDibenzyl trisulfideの作用機序と副作用についての論文です。



ジャマイカの現地住民の方は様々な疾病の自家療法としてハーブを使っており、その中でも中央~南アメリカ大陸に自生するPetiveria alliaceaという植物は抗がん効果を期待して使用されているそうです。

写真出典:https://www.tramil.net/en/plant/petiveria-alliacea


ただ、その有効性に科学的な裏付けは少なく、世界最大の民間癌センターとして知られるメモリアル・スローン・ケッタリング癌センターでも「人間への有効性は確認されていない」としています(下記ウェブサイト) 

https://www.mskcc.org/cancer-care/integrative-medicine/herbs/petiveria-alliacea



今回取り上げた論文はこのハーブの有効成分とされるDibenzyl trisulfideという物質について、薬物代謝酵素CYP1A1の阻害作用に着目して作用機序を解明しようとした論文です。
CYPの正式名称はシトクロムP450といい、ほぼ全ての生物で存在が確認されている酵素です。ヒトは50種類くらいのCYPを保有しており、薬剤の解毒代謝プロセスの約70%に関与する非常に重要な酵素のグループです。これらは機能別に数字+アルファベットの名前がついており、今回取り上げたCYP1A1はダイオキシン類などの代謝に関与しています。

また、CYPはいくつかの癌で発現量が増加しており、癌細胞が抗癌剤を積極的に解毒代謝してしまう事で薬剤が効きにくくなっている可能性が示唆されています。


今回の論文ではこのハーブの主成分がCYP1A1の機能を阻害する事で癌の薬剤抵抗性を減らしているのではないかという仮説の元、CYP1A1への阻害作用を検証しています。


上記論文のGraphical Abstract


引用元:https://doi.org/10.1016/j.taap.2021.115502


in vitro(試験管試験)では実際にこの物質によりCYP1A1の代謝活性は減少しています(上図左)

in silico(シミュレーション)ではこの物質はCYP1A1の活性中心に結合する事が予想される図が得られました(上図中央、緑と黄色が対象物質)

しかしながら、in vivo(生体試験)ゼブラフィッシュへの曝露試験では濃度依存性に発育不良が認められ、副作用もある事が示唆されました(上図右)。


以上から、このハーブの主成分Dibenzyl trisulfideはCYP1A1の阻害作用を有するものの、副作用も強く抗癌剤として実用化するには課題が多いという結論になっています。



今回の論文で面白かったのは、in vivo, in vitroの実験に加えて、in silicoのシミュレーションも同時に実施して多角的に検証している点ですね。当研究室が現在行っている研究でもこのようなシミュレーションを活用し薬物の作用や副作用の検証を行っています。


2022年度初回のゼミにもかかわらず非常に活発な質疑応答が行われ有意義なゼミになったと思います。来週からの発表にも期待ですね!

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